2020年09月08日

美しい人 〔中村〕

 小5国語の授業にて、宮沢賢治著『注文の多い料理店』が始まりました。


 知らない人のいないほどの名作ですね。


 2人の若い紳士が、食事にありつきたい一心で、料理店の言いなりになり、挙句の果てに化け物に食べられそうになる、という恐怖体験を分かりやすい日本語で描いた童話です。


 とりあえず「面白いストーリーだね」とか「スラスラ読めるよね」という感じで小学生は落着するのでしょうが、


 本当のところ、賢治はこの作品に“上流階級への批判”や“命を粗末にする傲慢な人間への非難”を描いているのだとされています。


 童話作家として有名な賢治ですが、一方で教員、音楽家、宗教家、芸術家、工場技師の顔を持ち、詩作、天文学、農業に精力的に取り組むなど多岐にわたって“みんなの幸せ”を追求した人でした。


 生前の賢治はほぼ無名で、この『注文の多い料理店』は生前に出版された唯一の短編集に収録されているのですが、当時は全く売れなかったそうです。


 かの有名な『雨ニモ負ケズ』にいたっては、彼の死後、たまたま手帳に書かれていたのが発見された訳ですが、そもそも発表するための作品ではなく、“単なるメモ”だったものです。


 そんな「世界全体の幸福」の実現を信じ、37歳という短い人生を全力で走り抜けた宮沢賢治の為人(ひととなり)が垣間見える文章をご紹介します。


 私は、初めてこの文章に触れた時、強い衝撃を受けました。何て優しい、何て美しい言葉なんだろう、と。


 平仮名ばかりの文章でこれだけ人の心を打つことが出来るものなのか、と。


 時間に追われ、欲にかられ、利害ばかりを気にして生きていることが恥ずかしくなったのを覚えています。


 教科書には載っていない『注文の多い料理店・序』です。



 わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
 またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどや羅紗や、宝石いりのきものに、かわっているのをたびたび見ました。
 わたくしは、そういうきれいなたべものやきものをすきです。
 これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです。
 ほんとうに、かしわばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかったり、十一月の山の風のなかに、ふるえながら立ったりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんとうにもう、どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、わたくしはそのとおり書いたまでです。
 ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでしょうし、ただそれっきりのところもあるでしょうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
 けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。

  大正十二年十二月二十日
                                        宮沢賢治



 こういう人こそ真の美しい人である、と私は信じています。私の憧れです。


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Posted by 立志塾  at 01:02 │中村